Compact Disc
CHERRY RED - CDBRED782 (2019)
CD ONE: ALL ABOARD THE SKYLARK
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CD TWO: ACOUSTIC DAZE
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結成50周年という大きな節目にあたる2019年は11月に50周年記念ツアーを控え、前半はフェス関連の出演にとどめこの新作の制作に費やされたようです。メンバーは前年のウィートン、Mr.ディブス脱退以降、ブロック、チャドウィック、マーティン、ホーンの4人というややコンパクトな編成。サックス奏者のマイケル・ソスナがゲスト参加しています。このアルバムは2CDセットとされCD1はスタジオ録音の完全新作のALL ABOARD THE SKYLARK。CD2は17年よりステージで展開しているアコースティックセットをスタジオ収録、加えてライブテイクも含めたACOUSTIC DAZE。
前々作はライブアルバム、前作は企画アルバムということで、レギュラー作としては17年のINTO THE WOODSから2年ぶり。期待された若手ベーシスト、ハズ・ウィートンはあっさり脱退し、後釜にはナイル・ホーンが出戻り。ホークスはこの手の人事が多いですね。今作で特徴的なのは、スペースロッカーとして半世紀の活動を誇る大御所としての貫禄と深みが漂う腰の据わった佇まいを見せているところ。またバンドに馴染んできたマーティンの自作リードボーカル曲が含まれ、その個性が生かされた新局面も伺えます。
アルバムのコンセプトはブロックよると、人類の滅亡や地球の破滅と再生の繰り返しについてとのこと。
Flesh Fondue 事前にプレ公開されたオープニングチューンで、これは従来からの骨太で勢いのあるハードロック。作曲とリードボーカルはブロックで、ヘヴィーリフの上で激しく歌っています、若いですね。歌詞はCHURCH OF HAWKWIND(82年)のStar Cannibalのと同じもので、人類をも捕食するエイリアンについてのもの。終盤曲調がマイルドになり、次曲につながります。
Nets Of Space ブロック作のインスト。3分ほどの小曲。ミドルテンポのベースフレーズの上でブロックのワウギターのフレーズや各種のシンセサウンドや効果音が流れていきます。ライナーには各曲について簡単に説明が記載されています。この2曲はホークウインドのクラシック・スペースロック・ナンバーと紹介。
Last Man On Earth マーティン作曲、リードボーカル。アップテンポでフォーキーな曲調で、キレのいいアコギのストロークをバックに抑揚を抑えたかのような歌い方。声質は滑らかでジェントル。シンセのバッキングやゲスト参加のソスナのサックス、ギターソロが入っています。コード進行とメロディが独特で、メローにならず、ポップにならない微妙な感じで、この感覚は今までホークスにはなかったもの。マーティンはホークスではキーボードとギターを担当していますが、アコースティックセットでアコギのプレイがとても達者でした。この曲調の感覚とギタープレイがブロックに評価されているのではないかと思います。
We Are Not Dead…Only Sleeping ブロック作、ボーカルも本人。スローバラード風でシンセパッドが流れる中、電子音が舞いつつデイヴが歌い、後半はエレピ風シンセの演奏。この2曲は、惑星の破滅と再生をテーマにしているとのこと。
All Aboard The Skylark 4人の共作でインスト。ホークスの真骨頂である反復リフの進行、ソスナのサックスとギターが絡みながらスカイラーク号が飛翔していくような光景。全体にシンセのパッド音が覆いかぶさるような音で意外にマイルドな質感。スカイラークの破滅と再構築がテーマということで、スカイラーク号は地球の象徴でもあるということが分かります。
65 Million Years Ago 6500万年前の巨大隕石衝突についての曲。ブロック作、本人がボーカル。スローで重々しい曲調、隕石衝突による壊滅的状況が歌われていきます。深い溜息のような音で終了。
In The Beginning 破壊された地球上に再度生命が生まれていく様を描写した美しいインスト。ブロック作。
The Road To… 軽快で明るくポジティブな曲。電子音による効果音が様々に流れ、エレキが滑らかなリフを演奏。リズムがブレイクしてピアノの美しいリフ、続いてパッドのメローなコード進行にシンセのオブリガード、エレキやピアノが奏でられます。この辺りのインプロの雰囲気も今までになく落ち着いた印象。
The Fantasy Of Faldum 前曲の明るい印象を受け継ぎ、アコギをバックにマーティンがゆったりと歌います。ヘルマン・ヘッセの寓話をベースにした歌詞とのこと。やはりメローになり過ぎないやや冷めた感もある曲調。歌の後エレキソロがあり、その後シンセや電子音の高鳴るパートが挿入され、後半はホークスらしいブルージーなメロに展開、流麗な進行にワウギターのソロが続きます。歌詞にあるように山々や大地が海に飲み込まれていく情景を水音で表現。メロが戻り余韻のあるコーラスが続き、エンディングとなります。一聴するとさらっと流れてしまうような曲ですが、聴き込むと凝った作りとメロディの美しさに気がつきます。
この終曲の印象が強いためか、従来に比べると大人びた印象が強く、前述しましたように堂の入ったスペースロックという感じの作品です。キーボード類もかなりの音量で流れているにも関わらず、 強調されず全体に溶け込んでいる感じです。アレンジ、音色とさらに深みを増してきたというところで、従来のハードで派手派手しいトーンが抑えられているので、評価が分かれるかも知れません。コンセプトと合わせて聴くと、より理解しやすいと思います。
レコーディングの経緯がライナーに記載されいます。昨年のROAD TO UTOPIA制作に向けてバンドでスタジオに入り制作したトラックとのこと。これをマイク・バットに提示し、バットが管弦楽用にスコアを起こしたそうです。そのため、ROAD TO UTOPIAの元ネタになっているので、カブっている曲もかなりあります。2017〜18年の頃になると思いますので、時期的にメンバーは、ブロック、チャドウィック、ディブス、ウィートン、マーティンとなります。ソスナがサックスで一部参加。タイトルをアコースティックとしていますが、純粋なアンププラグドではなく、ベースはエレキですし、シンセ類もかなり使用されています。ギターがほとんどアコギなので、アコースティック感は強いです。そして後半は実際のステージからのライブ収録のトラックです。
PSI Power ホウクローズ期の「25年間」収録の名曲。ブロック/カルバート作。パーカッションとベース、アコギの演奏をベースにしながら、ブロックが低いトーンで歌います。バックのシンセ類の扱いが曲の流麗さを醸しており、Road To Utopiaバージョンとは違った魅力があります。
Hymn To The Sun マーティン作のインスト。アコギとストリングス系シンセによる小曲。Road To Utopiaにも収録されていますが、ほぼ同じ印象。
The Watcher レミー作、「ドレミファソラシド」収録曲。ボーカル、ハーモニカはブロック。Road To Utopiaではクラプトンをフィーチャーしていましたが、ここではギターよりもハーモニカのプレイが目立っています。
Micro Man 同じく「25年間」収録、ブロック/カルバート作。スローテンポでブロックが朗々と歌います。ノイズや効果音が重ねられています。
Intro The Night マーティン作のインスト。アコギとベースによる美しい序曲で次曲につながります。
Down Through The Night 「ドレミファソラシド」のブロック作の名曲。原曲ではハイトーンボイスを聞かせるブロックですが、ここではキーを下げて中音域で歌います。中盤ブロックらしいエレキソロ、シンセの高鳴りと共に盛り上がります。
Flying Doctor 「25年間」収録、ブロック/カルバート作。ボーカルはディブス。オーストラリアの救急ヘリのドクターをテーマにしたもの。中間のナチュラルトーンのエレキが特徴的。緊迫した救急現場の描写をディブスが演じています。ブレイク後のチャドウィックのカウントダウンからAメロに戻ります。
Get Yourself Together ここからライブテイク。2017年のINTO THE WOODSツアーから。ステージでのトークを長めに収録していて、オーディエンスとの楽しいやり取りも微笑ましいです。おおらかなフォークソング、ブロック作、リードボーカルも本人。過去DAWN OF HAWKWINDというブロックのホークウインド結成前のバスカー時代の演奏を収めたアルバムに同題曲がありますが、同じ曲に聞こえないです。ソスナのサックスも良いですね。
Ascent Of Man ブロックとチャドウィックのMCが楽しい。これ聞くとチャドウィックさん、かなり面白い人なんだと分かります。INTO THE WOODS収録のAscentでブロック作、本人がボーカル。ここも間奏でサックス演奏。
We Took The Wrong Step Years Ago 「宇宙の探求」収録のブロック作のフォーキーな名曲。ここ数年のステージではかなりの頻度で取り上げています。
どの曲もデモとは思えないほど作り込まれており、1枚のアルバムとしても十分に聞き応えのある内容です。なお、この2CDセットは、アナログLP盤としてもリリースされましたが、2枚組ではなくシングルLPに分けられそれぞれリリースされました。ACOUSTIC DAZEはA面/B面の調整のためか、一部曲順が異なります。
バンドはこのアルバムを引っさげ、11/10のブライトンを皮切りに15回のギグに及ぶ50th ANNIVERSARY TOURを開始します。ツアーにはティム・ブレイクが同行することがアナウンスされ、前座は昨年に続きTHE BLACKHEART ORCHESTRAが抜擢。この新作からの選曲を中心にしたセットリストでした。そして終盤11/25のギルフォードではサプライズゲストとしてエリック・クラプトンが参加。公演時間の半分以上ホークスと一緒に演奏しました。最終日のロイヤル・アルバート・ホールはソールドアウト、ゲストはフィル・キャンベル、元PILのジャー・ウォブルもゲストで参加し、記念すべき50周年記念ツアーを終えました。翌2020年は1月にGIANTS OF ROCK、8月にはランブリン・マン・フェアーなどのフェス参加を表明。また8月にはHAWKFEST2020の実施も告知しています。
・ALL ABOARD THE SKYLARKのLP盤のレビュー
・ACOUSTIC DAZEのLP盤のレビュー
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2019/12/01 update