Special Feature
元EMIディレクター ナイジェル・リーヴ氏のインタビュー
2011年にEMIよりホークウインドのコンピレーションPARALLEL UNIVERSEがリリースされ、リバティ/ユナイテッド・アーティスツ期の新たに発見された蔵出し音源が収録されました。このコンピレーションが作られた背景、そして長年ホークスのアーカイブを編纂してきたEMIのディレクター、ナイジェル・リーヴへのインタビュー記事(2011年、PARALLEL UNIVERSE発売直前に行われた)を翻訳したものです。もう10年前になりますが、非常に興味深い内容です。EMIは2012年にユニバーサルより買収され社名は消失。その後ホークウインドなどの版権所有はパーロフォンとなり、2013年にワーナーに売却されました。よってUA期はワーナー傘下のパーロフォンレーベルの版権となっています。リーヴは2021年現在ワーナーの社員となっているようです。
2011年PARALLEL UNIVERSE発売時のインタビュー記事の和訳
EMIのナイジェル・リーヴは15年以上にわたってリバティ/ユナイテッド・アーティスツのホークウィンド・カタログの管理に携わっており、リマスター・プロジェクトや「THE 1999 PARTY」、最近では2枚組の「AT THE BBC」など、EMIによる様々なホークウィンド・リリースの原動力となってきました。EMIがホークウインドの1970年から1974年までの既存の録音と未発表の録音を集めた3枚組のコンピレーション「PARALLEL UNIVERSE」のリリースを控えている時期に、ホークウインドのリリースを担当しているナイジェルにインタビューを行いました。
<N.リーヴ>
このセットの企画は5年ほど前に始めたものですが、ホークウィンドはやり尽くしてしまって、他にできることがほとんどないように思えたので、何かできないかと考えていました。そして2年前にこのセット企画を見直し、改めて保管庫のテープ群を見て「ちょっと待て、ここには何か辻褄の合わないものがあるな 」と思ったんです。しかし、スタジオに入ってテープを再生し、何が起こっているのかを把握するまでには、さらに1年かかりました。ファン達が何かを知っているのか、オンラインで少し調べてみました。もちろん私自身もカタログをよく知っていますが、そこには誰も知らないことがあって、どうしてこのようなものが世に出なかったのか理解できませんでした。何があったにせよ、これらのテープは何年もの間、私たちの保管庫に保管されたまま忘れ去られていたようですが、私が少しずつ掘り下げていくうちに、これらのトラックが明るみに出てきたのです。それがきっかけで、このセットを完成させて、その時代を一度にカバーしたいと思うようになりました。
元々のセットは、1970年から1974年までの全作品を収録した「コンプリート・ピリオド」のようなものになる予定だったので、それを踏まえたものにしたかったのです。しかし、これらの貴重な音源を手に入れるまでは、ファンにとって特に目新しいものはありませんでした。新たに別バージョンやその他の様々な断片を手に入れたので、1つのセットでその時代の主要な曲を収録し、既存のものと未発表のものの両方のスナップショットを提供するのが最良の方法だと考えました。従来のファンにこれらの曲を提供すると同時に、ホークウインドは常に新しいファンを獲得しているので、これから入ってくるであろう新しいファンと両方を取り込むには、その方法がいいと思いました。
このセットのために私が書いた年表があり、レーベルのコピーもあるので、マルチトラックから得られた日付が記載されており、その期間のラインナップのリストもある。実際には、ジグソーパズルのすべてのピースがそこにあり、ほとんどの日付は事実ですが、例えば、「ドレミ」のセッション中に録音されたことは間違いない、というテイクもあります。つまり、特定の月の前半に録音されているのですが、具体的な日付がわからないものもあります。
<聞き手>
テープはどのような状態でしたか?テープをベイクして中身を取り出したという話をよく聞きますが...。
<N.リーヴ>
状態は素晴らしく、何の問題もなかったです。テープが問題になるのは、もう少し後になりそうです。テープを取り出してみると、どのテープもベーキングが必要なものはなく、すべて問題なかったです。
(※HAWKWIND DAZE注 マスターテープの劣化がひどい場合は一度熱を加えて磁性体を整えて、再生→デジタル取り込みという作業を行いますが、それをするとそのマスターテープは2度と使えなくなるそうです)
<聞き手>
当時のバンドがやっていたことを全く違う形で表現したYou Know You're Only Dreamingや、リリースされたバージョンとは全く異なるWind of Changeなどの別バージョンを聞くと、とてもエキサイティングな気持ちになりますよね。
<N.リーヴ>
全くそうですね。バンドがどのように発展していったかを知ることができます。このYou Know You're Only Dreamingは、Mirror of IllusionやHurry On Sundownによく似ています。当時のライブは1stアルバムの残りの曲を演奏しながら、ジャムをするというものでした。そこからアイデアが出てきたことが分かります。しかし、バンドはまだ安定した制作に入る準備ができていなかったのか、もう少し後の「宇宙の探究」になって、ようやくその制作方法に入ることができました。興味深いことに、今回発見されたKiss of the Velvet Whipは「宇宙の探究」の頃に再度制作されたもので、以前のバージョンよりも形になっていて、彼らがやりたかったことが、うまくいくまでに時間が必要だったことが伺えます。Wind of Changeは、マルチトラックテープに「Rock Around the Clock」と記載されているので、「なんだこれは」と思いながらテープを再生しました。これは本当に「Rock Around the Clock」なのか?いや、これはWind of Changeの別バージョンだ。このテイクは明らかにセッションの初期のもので、その初期バージョンの要素が(最終版の際に)きり取られているのですが、これは単独で完成していてとてもパワフルなので、発表する理由になりました。
<聞き手>
これは、サイモン・ハウスが参加する前のものではないでしょうか?
<N.リーヴ>
そうだと思います。
<聞き手>
人々は、存在するかどうかわからないテープについて憶測します。例えば、「永劫の宮殿」に一部使用されたEdmonton Sundownのギグのようなものとか。アーカイブにあるかもしれない他のアイテムについて、何か言えることはありますか?
<N.リーヴ>
他にもあるにはありますが、残念ながら「永劫の宮殿」のトラックなどは「ライブ」と書かれていますが、それは基本のライブテイクのトラックに後からオーバーダブを施したものです。Space Ritualのツアーでは、サンダーランドでのテイクがあり、ブリクストンに行く前に録音されたものですが、録音に不具合があり、ミキシングで何をやっても元に戻すことができませんでした。これが問題なのです。ライブのマルチトラックがあり、私はそれらすべてを確認しましたが、それらすべてをまとめるのは非常に難しく、十分な録音や演奏がなく、すでに入手したものより良いものはありません。
<聞き手>
そういった意味では、昨年の「AT THE BBC」のセットは、より良い音質になっていても良さそうですが、もともと質の低い音源だったのでしょうか?
<N.リーヴ>
そうなんです。いろいろと調べてみてショックでした。どんなに努力しても限界がありました。エンジニアと一緒に多くの時間をかけてライブ・トラックをクリーンアップし、最高のものに仕上げましたが、その他のセッション・テイクからは、ファンに再び提供することを正当化するようなものは何も得られませんでした、ファンは良いものを既に手に入れているのですから......とても素晴らしいものではないかもしれませんが。他のものはこれ以上無理だと思いました。
<聞き手>
「AT THE BBC」をモノラルとステレオでリリースした背景は?
<N.リーヴ>
偶然の産物でした。WINDSONGのパッケージはモノラルバージョンで、クリーンアップが必要だったので、BBCにテープの別のコピーを依頼したところ、実際に送られてきたのはステレオで、彼らはそれの存在を記録してなかったのです。この2つのバージョンは、モノラルとステレオというその性質上、かなりの違いがありました。WINDSONGのモノラルは以前よりも良い音になりました。ステレオは以前にブートレグでしか流通していなかったので、より良くできました。それぞれの長所をファンが選択できるようになりました。
<聞き手>
あなたたちEMIはホークウインドのカタログに関しては素晴らしい仕事をしてくれたが、結構波乱万丈な作業だったと思います。一つのバンドより明らかにしていくためには模範的と言えますが、失礼ながらかなりニッチなことだと思います。EMIにとっては、どのような位置付けなんでしょうか?
<N.リーヴ>
実際、私はEMIでその関心を高めています。私が最初にカタログに取り組み始めたのは、1996年にティム・チャックスフィールドと一緒にデジパックのリマスターを行ったときでした。その後、それらの状況を確認しながら、何か新しいことをするための機会を探っていました。個人的な興味は別にして、バンドには安定したオーディエンスがいて、その人たちが購入してくれるということです。莫大な売り上げではありませんが、私たちが言えることは、ホークウインドのパッケージを出せば、上手くいくということです。
<聞き手>
このアンソロジーで素晴らしい仕事をしてくれてありがとうございます。聞くのが楽しく、バンドのキャリアのこの時期を本当に照らし出してくれます。このような素晴らしい仕事をしてくれたことに感謝しています。
<N.リーヴ>
5年前には全く違ったイメージを持っていたこのセットを、やり遂げて完成させることができたのは、私にとっても喜びでした。この作品はずっと後回しになっていて、その間にBBCのセットが出たりしたのだけど、これらのテープのおかげで完成させる気になったし、本当に嬉しいよ。今後は何か面白いことが起こらない限り、これ以上できることはないと思いますので、とてもいい締めくくりになりました。
ホークウインドのリバティ-UA期のCDは以前はEMI、現在はPARLOPHONEが版権を持っています。これまでにリリースされてきた主要作品のカタログです。
STASIS UA YEARS (1990)
HAWKWIND (1996)
IN SEARCH OF SPACE (1996)
DOREMI FASOL LATIDO (1996)
SPACE RITUAL (1996)
HALL OF THE MOUNTAIN GRILL (1996)
THE '1999' PARTY - LIVE AT THE CHICAGO AUDITORIUM MARCH 21 1974 (1997)
EPOCH ECLIPSE 30 YEARS ANTHOLOGY (1999)
EPOCHECLIPSE THE ULTIMATE BEST OF (1999)
SPACE RITUAL COLLECTOR'S EDITION (2007)
GREASY TRUCKERS PARTY (2007)
AT THE BBC -1972 (2010)
PARALLEL UNIVERSE: A LIBERTY/U.A. YEARS ANTHOLOGY 1970-1974 (2011)
SPACE RITUAL (2013)
THIS IS YOUR CAPTAIN SPEAKING ... YOUR CAPTAIN IS DEAD (THE ALBUMS AND SINGLES 1970 - 1974) (2015)
リーヴ氏のインタビューにあるように、ホークスの黄金期であるUA期の作品は出せば売れるということですが、96年のデジパック以降、レギュラーアルバムは「宇宙の祭典」以外は単品での発売はされていません。対して日本盤の方は3回も再発してきました。リーヴ氏によって発掘された音源含めて、この時期のホークスのカタログはすべて整理されていますので、しばらくすると何かしらの形で再発売され続けていくと思われます。
すでに明白のことなので今回の和訳では省きましたが、このインタビューでも「絶体絶命」についての質問に回答してまして、マスターは存在し版権はバンドサイドにあると明言していました。当時はマスターは紛失してるのでは?というデマがWikiにも書かれていました。
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2021/07/10 update