Analog Disc
UNITED ARTISTS - UAG29766 (1975)
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75年5月、いよいよ新作が登場します。ムアコックの世界観そのままのファンタジックなジャケットに包まれた名作。メンバー、楽曲、演奏、コンセプト、ジャケデザイン、すべての要素にケミストリーが働いたとしか思えない作品です。海外のファンの間でもホークスのアルバム中最も好まれている作品です。リリースから44年後の2019年に英PROG誌のProgressive Music Award 2019において新設されたCLASSIC ALBUM部門賞を受賞しました。
アルバム・コンセプトは、ずばりムアコックのETERNAL CHMPION(永遠のチャンピオン)。SF作家のマイケル・ムアコックは小説創作のかたわら、曲作りやバンドをしていたそうです。カルバートやターナーと知り合ったことで、71年頃からホークスのギグで自身の詩を朗読したり、詩を提供するようになりました。75年3月、ホークスはそのムアコックの真骨頂であるヒロイックファンタジーを題材にアルバムを制作しました。ムアコックは詩を提供し、自身も朗読で参加。
参加メンバーはブロック(G/Vo)、ターナー(Sax/Fl/Vo)、レミー(B/Vo)、キング(Dr)、ハウス(Key/Vl)に加えて、ギグでキングの代役をしていたパウエル(Dr/Per)も加わり、バンド初のツイン・ドラムスとなりました。
前作から顕著化してきたバンド全体の整合感、キングとパウエルのツインドラム、ハウスによるメロトロンを押し出したシンフォニックな音作りと合間って壮大な音の絵巻となりました。SPACE RITUALまでの音のカオスは減少し、前作から顕著化してきた整理されたアレンジが一般的な聴きやすさをもたらしています。音質も向上し各楽器が明瞭になったミックスとなっています。
アルバム制作のきっかけは同年4月からのUSツアーに伴い、USの配給元ATCOより新作リリースを条件とされたもので、そのため3月の数日間という短期に作られたようです。
印象的な曲が多く、オープナーと2曲目(Assault & Battery Part 1、The Golden Void Part 2)はメドレーになっており、ステージで定番レパートリーになります。インストルメンタルのOpa-Lokaは2人のドラマーの多彩なパーカッションがドイツのNEU!を彷彿させるアパッチビートを刻み、シンセやフルートがヒロイックファンタジーの世界観を醸し出していきます。人気の高いA面ラストのThe Demented Man はブロックのアコギと寂寥感あるメロディを唄う声がメロトロン&シンセの織り成すコードに乗る名曲ですが、当時のライブ・ブートをいくつか聴いてもステージでは演奏されていませんでした。B面トップのMagnuはツインドラムの演奏が印象的でダイナミックな曲想とマッチし迫力ある仕上がり。ハウスのペンによるSpiral Galaxy 28948はシンセの多重録音とバンド演奏が融合されスペーシーでスリリングな演奏。
キングとパウエルのツイン・ドラムとレミーのベースという強力なリズム・セクション、空間を埋め尽くすハウスのキーボードとバイオリンの大幅な起用、ムアコックが朗読により参加と、おいしい要素が揃ったこのアルバム、ホークス・アルバム史上SPACE RITUALに続く2番手の全英13位という実績を残しました。
しかしリリース同月悲劇が。4度目の北米ツアー中カナダ入国の際、レミーがコカイン所持で拘留(実際はコカインではなく、もう少し軽いアンフェタミンでそれほど重罪ではなかった)。バンドは保釈金を積んで釈放させ、トロントでステージを行いますが、再度USに入国しツアーを再開するもバンドはレミーを即解雇、代役にPINK FAIRIESのポール・ルドルフを抜擢します。メンバー不祥事によるツアーキャンセルを懸念したこともありますが、バンド内で存在感の大きくなるレミーへの嫉妬や、スピードを常用することにも批判的だったバンド内の軋轢が作用したそうです。ターナーやパウエルとの説が一般的で、その後その2名も脱退することになります。
レミーはその後一人でイギリスに戻り、MOTÖRHEADを結成します。突然の解雇でマネージメントやバンドに対して相当な確執を持っていました。しかしその後、リーダーのブロックとは和解し78年にはホークウインド(この時はホウクローズ)のハマースミス公演にゲストで参加、以降ブロックとは親交が続き時々ゲスト参加することになりました。ブロックはバンド歴史上最大の後悔としてレミーの解雇を挙げています。またレミー自身も、何もなければずっとホークスにいただろうとのちに語っていました。
バンドはその後もヨーロッパやUKツアーを続けます。8月のレディングが節目で、そのステージを最後にステイシアが結婚のためバンドを抜け、カルバートが客演。その後12月にカルバートは正式復帰します。
このアルバムを最後にUNITED ARTISTSを離れることに、そしてマネージメントはダグ・スミスからトニー・ハワードに変更することになります。(ダグ・スミスは80年にマネージメントに復帰します)
このアルバムから、今までレコード会社任せだった版権をバンド側が保持することになりました。そのためLIBERTY/UA期の作品群はEMIに引き継がれた後もレコード会社の判断で再リリースが繰り返されましたが、このアルバムだけは販売権利がありませんでした。リリースについては参加メンバー全員の同意が必要になり、その手間などで発売に至りませんでした。
初CD化は92年に英DOJO、続いて93年にカナダのGRIFFINよりCD化されましたが、マスターテープからのマスタリングではなく、レコード盤起こしや子マスターからのマスタリングでした。
【DOJO LIMITED - DOJO CD 084 (1992)】
【GRIFFIN MUSIC - 55421 3931-2 (1993)】
その後も人気アルバムゆえ再発の動きはありました。発売に伴う参加メンバーへの交渉は当初ダグ・スミスが担当したのですが、レミーがサインを拒否し続けていたため、発売ならずという状況でした。レミーは、モーターヘッドの初期のマネージャーだったスミスに対して、金銭等の関係で相当な不信感を持っていたため。
99年のEMIからホークウインド 結成30周年を記念したベストアルバムEPOCHECLIPSE(1枚もの、3枚ものの2種あり)がリリースされましたが、そこにWARRIORから公式としては初のデジタル化されたトラックAssault & Batteryが収録されました。3枚組セットにはAssault & Batteryに加え、Golden Void、Magnuの計3曲が収録。このときのマスタリングはジャーマンプログレのBIRTH CONTROLの鍵盤奏者だったゼウス・B・ヘルドが担当。なぜかすべてのトラックの左右が入れ替わっていました。タイトル「蝕」の事象の反転という意味から意図して入れ替えたのか、事実関係は不明。
その後、非正規盤(ROCK FEVER MUSIC盤)がリリースされたこともありました。
いよいよ実現にむかったのが2012年頃。ホークスのアーカイブをリリースするATOMHENGEレーベルを立ち上げたマーク・パウエルやブロックがレミーに交渉を行なうことで許可が降り、2013年にオリジナルマスターテープ、マルチトラックテープからのマスタリング、スティーヴン・ウィルソンのリミックスやボーナストラックを含む決定版がリリースされました。
以下の3種のフォーマットでリリース。
STANDARD EDITION
【ATOMHENGE - ATOMCD1035】
オリジナルスターテープからリマスタリング。ボーナストラックは1曲のみ。シンプルにオリジナルを楽しむならこれ。
THREE DISC EXPANDED EDITION
【ATOMHENGE - ATOMCD31037】
オリジナルマスターテープに加え、スティーヴン・ウィルソンによる新ミックス、各種アウトテイクや未発表音源によるボーナス、DVDにはウィルソンによる5.1chサラウンドが収録。多角的にこの時期のホークスを楽しみたい方向け。
SUPER DELUXE BOXSET LIMITED EDITION
【ATOMHENGE - ATOMBOX 1001】
上記THREE DISC EXPANDED EDITIONに180gLPやポスターなどつけた限定のデラックスセット。マニア向け。
なお国内盤もWHDエンタテインメント(のちにWOWOWエンタテインメントに社名変更)からリリースされましたので、紙ジャケが好きな方には、はそちらをおすすめ。
2019年にも国内盤リリースがあり、1CD版「絶体絶命」がマーキー/ベル・アンティーク・レーベルより発売。
・当時リリースされた本作の日本盤(1975)のレビュー
・日本再発盤(1981)のレビュー
・アメリカ盤プロモ(1975)のレビュー
・EXILESさんのCDレビュー
・ATOMHENGE STANDARD EDITION(2013)のレビュー
・アトムヘンジ国内盤「絶対絶命」(2013)のレビュー
・ATOMHENGE THREE DISC EXPANDED EDITION(2013)のレビュー
・上記の国内盤「絶体絶命」トリプル紙ジャケット・デラックス・エディション(2013)のレビュー
・ATOMHENGE SUPER DELUXE BOXSET LIMITED EDITION(2013)のレビュー
・上記の国内盤「絶対絶命」スーパー・デラックス・ボックス・エディション(2013)のレビュー
・上記のサラウンドMIXのレポート
・CDの国内再発盤「絶対絶命」(2019)のレビュー
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2019/10/30 update